師の柄杓は凛としてゆるぎない完璧なかたちをしていた。だれもが卓抜した美意識と器用な手先に畏怖を感じた。
それでいてかなずしも完全な美しさを喜ばない偏屈さ。高麗の井戸茶碗を(ゆるきもの)だと打ち割ったことがある。緊張感のなさが気に食わなかった。
ちょうど十文字に割れたので継ぎ直して使っていた。師に褒められた。師もまた花入れや灯籠を欠いたことがあると聞いて弟子は驚いた。
師とは利休。弟子とは古田織部。早世した小説家・山本兼一(利休にたずねよ)より。